Triplex FreeBSD CD-ROM の作り方

本稿は,FreeBSD PRESS No.2 (Dec/2000)へ寄稿した原文を元にして加筆修正を行った文章です, FreeBSD PRESS 編集部のご好意により,Web でも公開しています.


はじめに

FreeBSD の CD-ROM を作ろう

新しい PC を目の前にする時,というのは,いつもなんとなく新鮮で, わくわくするものです.購入時に「今度の PC はどんな仕様にしようかな」 と悩むことからはじまり,購入してきたPC の包みを開き, 実際に使い出すまでにはいろいろな作業があります. それは普段あまり体験できない作業であります.その中でも, 「OS をインストールする」という作業は, 無機質な PC に命を与えるひとつの儀式として,おごそかに, しかし確実に行うことになります.もちろん,OS には FreeBSD,です.

FreeBSD を使い始めるには,まずインストール作業が必要,です. ここ最近では,一般家庭でも「普通ネットワークインストールだよね」 という方もいるかもしれません.しかし,依然として 「やっぱり CD-ROM が便利」という方が,きっと多いのではないかと思います. 数千円で購入できてしまう 50 倍速 CD-ROM ドライブを使った, CD-ROM を用いたインストール方法よりも早くて安い方法は, まだまだ先の話になりそうな気がします.

CD-ROM,というと,ここ数年すっかり CD-ROM を作成する環境, つまり CD-R ドライブと CD-R メディアが身近になりました. 8 倍速や 12 倍速といった高速のドライブでなければ, ATAPI 接続の物が 1 万数千円程度で買えてしまいます. メディアはもはや 1 枚 50 円を切り,とても安くなりました.すでに, いろんな CD-ROM を気軽に作って楽しんでいる方も多いのではないかと思います. でも,せっかくドライブを購入したのに「どんな CD-ROM を作ろうかな」と悩んで, せっかくのドライブを宝のもち腐れにしている方も多いのではないでしょうか.

と,いうわけで‥‥本敲ではそんな方のために, FreeBSD をインストールする時に使える CD-ROM を作成する手順についてご紹介します(注: 今回の手順は i386 版 FreeBSD を対象としています).

「それは前号にもあったのに,また同じ話?」

確かに,前号で熊谷さんが FreeBSD のインストール用 CD-ROM の作成手順について記事を書かれています. (注: 熊谷典大: 「UNIXみるならGUI やるならコマンド番外編 FreeBSD CD-ROM の制作」, FreeBSD PRESS No.1, pp.137-151) この記事では,「単に CD-ROM へ FreeBSD の配布物を入れるだけだと, 容量がいっぱい余る」という点に着目して, その余った空間に自分好みの packages を入れる方法について, 非常に詳細な内容を書いています.

でも,空いた容量は本当に packages のため「だけ」にあるのでしょうか?

CD-ROM の容量は約 650MB です(700MBの物もありますけれども).そして, FreeBSD の配布物は,バージョンにも依存しますが, packages を除けばだいたい 200MB 前後です(XFree86 を含む). つまり,CD-ROM の容量というのは, FreeBSD の配布物を 3 つ入れられるだけの空間がある, ということになります. 誰も「1枚の CD-ROM には FreeBSD は 1 つしか入れてはいけません」 なんて言ってないのですから, 空いた容量を別のバージョンの FreeBSD を入れるのに使っても良いはず,です.

「どうせ 1 つしか使わないのに,3 つも入れても仕方ないじゃん」 と考える方もいるかもしれません. でも「どのバージョンを入れて良いのか悩む」場合や 「イベント等のために,いろんなバージョンを簡単に用意しておきたい」 という場合などでは,複数のバージョンを 1 枚の CD-ROM で済ませてしまうと, 便利であることも多いです (というか,多くないと後の話が続きませんので,そういうことにさせてください).

というわけで‥‥本稿では 「3 つの異なるバージョンの FreeBSD 配布物を含んだインストール用 CD-ROM」, 名付けて Triplex FreeBSD CD-ROM の作成について紹介します. 本稿で紹介する CD-ROM は,daily SNAPSHOTs プロジェクトのサービスマシン, current.jp.FreeBSD.org で提供している物と基本的に同一のものです. 本稿では 3.5-STABLE,4.2-STABLE,5.0-CURRENT という 3 つの異なるバージョンを用いることにしますが, 基本的には(3-stable 以降の)どのバージョンでもうまくいくはず,です.

CD-ROM を作る前に

本敲では,mkisofs を用いた CD-ROM の作成を行うことにします. この場合,CD-ROM を作成するための手順は以下の通りになります.

  1. CD-ROM に入れる中身を準備する
  2. mkisofs コマンドで CD-ROM のイメージを作成する
  3. 適当なコマンドで CD-ROM イメージを CD-R メディアに書きこむ

本敲ではこのうち 1 と 2 だけを対象にします. イメージを作成した後,実際に書き込む際の方法については, それぞれお好みの方法を利用していただいて構いません. FreeBSD 4.0-RELEASE 以降では burncd というコマンドもありますので, これを使う方法もあるでしょう.

事前の準備

非常にあたりまえのことなのですが, 入れる中身を何らかの方法で入手する必要があります. 自らで FreeBSD の配布物を作成する方法をご存知の方は, 自前でソースコードから用意していただいても構いません. そうではない方は,ftp 等で入手してください. 今回,packages を入れる予定はありませんので, packages は入手しなくても構いません.XFree86 はお好みでどうぞ.

次は作業用ディレクトリを用意します.CD-ROM の中身を, このディレクトリの下に用意することになります (以下の説明では,ここを仮に /work とします). この場所には CD-ROM 1 枚分,すなわち約 650MB 程度の容量が必要です.また, 最終的な CD-ROM イメージファイルのために, やはり 650MB 程度の空容量が別途必要です (以下の説明では,ここを仮に /image とします).2 つあわせて, 約 1.3GB 程度の空容量が必要,ということになります.

簡単な方法で作ってみましょう

まずは,簡単お手軽な方法で Triplex FreeBSD CD-ROM を作ってみましょう.

中身を準備する

事前に入手した FreeBSD 配布物を作業用ディレクトリに置きます. この時,トップディレクトリにそれぞれ「バージョンの名前」 をつけたディレクトリを作成し,各バージョンの配布物は, それぞれのディレクトリにはいるようにします.例えば, /work/3.5-STABLE 以下には, とってきた 3.5-STABLE の中身が全部はいるようにしておいてください.

さらに,sysinstall (FreeBSD のインストーラ)が, 作成した CD-ROM を FreeBSD のインストール用 CD-ROM だと思ってくれるように, ちょっと細工をします.細工,といっても簡単です. 作成する CD-ROM にとってのトップディレクトリになる場所, つまり /work 直下に cdrom.inf というファイルを作成します. このファイルの中身は次の 1 行だけ,です.

CD_VERSION = any

cdrom.inf において,CD_VERSION ではじまる行は 「この CD-ROM にはいっている FreeBSD はどのバージョンなのか」 を示すためのものです.通常の FreeBSD CD-ROM では, バージョン文字列がそのまま書かれています (例えば,4.2-RELEASE であれば,CD_VERSION = 4.2-RELEASE となります). インストーラは, 自分自身でこれからインストールすることになるバージョンを, あらかじめ知っていますので,そのバージョン文字列と, cdrom.inf に書かれたバージョン文字列が一致するかを事前にチェックします. もし,一致しなかった場合には 「違うバージョンの CD-ROM が挿入されている」と判断して, 警告を発するようなっています.

しかし,これから作ろうとしている CD-ROM では, どのバージョンをインストールすることになるのか事前にはわかりませんので, このままではバージョン文字列を指定することができません. cdrom.inf を作らなければ 「この CD-ROM は FreeBSD の CD-ROM ではないかもしれない」と, やはり警告が出てしまいます. このままでは,困ってしまうわけですが‥‥ バージョン文字列を any とすることにより, バージョンチェック自体を回避することができますので, 今回はこの方法を使います (注: この機能自体は,2000 年 9 月下旬以降の 3-stable, 4-stable および -current で正しく動作します.これ以前のバージョンの FreeBSD を用いる場合には注意してください).

以上をまとめると,/work 以下はこのようなレイアウトになります.

/work/ -+- 3.5-STABLE/ -+- bin/
        |               +- catpages/
        |               +- (この他,3.5-STABLE の配布物が並ぶ)
        |                    
        +- 4.2-STABLE/ -+- bin/
        |               +- catpages/
        |               +- (この他,4.2-STABLE の配布物が並ぶ)
        |
        +- 5.0-CURRENT/ -+- bin/
        |                +- catpages/
        |                +- (この他,5.0-CURRENT の配布物が並ぶ)
        +- cdrom.inf

CD-ROM イメージを作成する

先に述べた通り,mkisofs コマンド (標準では用意されていませんが,packages にはあります. ports から入れたい方は sysutils/mkisofs にあります) を使ってイメージを作成します.例えば,こんな感じです.

mkisofs -r -J -N -o /image/triplex.iso -V FreeBSD /work

なお,mkisofs についての詳しい説明はここでは省略しますので, 必要に応じてマニュアル等を参照してください. 無事に終了すると,/image/triplex.iso (というファイル)ができあがります. 後はこれを CD-R メディアに書き込むだけ,です.

ブート可能な CD-ROM にしてみましょう

上記の方法で,とりあえず使える物は作成できます. しかし,こうやって作成した CD-ROM は bootable ではない, つまり,CD-ROM からブートしてインストールできるわけではありません. 先の手順で作成した CD-ROM を使ってインストールを行うには, インストーラを起動するために,1.44MB フロッピーを 2 枚 (あるいは 2.88MB フロッピーを 1 枚)使って, ブートフロッピーを作成しなければいけません. でも,せっかく CD-ROM なのですから, フロッピーなしでインストールできるようにしたいですよね.

ブート可能な CD-ROM は,それ自身の中に「ブート用のディスクイメージ(ファイル)」 を持っています.このディスクイメージ, 実は 1.44MB あるいは 2.88MB フロッピー, もしくは,HDD と全く同一の構造であり, CD-ROM 上では単にファイルとして存在します (注: 一般的によく用いられている El Torito 規格の場合. 今回作成する CD-ROM は,この規格に従った物を作成します). PC が CD-ROM から起動する際には,このイメージを先に読みこまれます. その後,あたかもそこに仮想的なフロッピーや HDD があるかのようにして, 起動し始めます.従って,ブート可能な CD-ROM を作成するためには, この「ブート用のディスクイメージ」が作成できれば良いことになります.

ちなみに,通常の FreeBSD CD-ROM の場合,floppies/boot.flp,つまり, すでに提供されている 2.88MB フロッピーイメージをそのまま使っています. しかし今回はそういうわけにはいきません.

ブートイメージを作成するために

この Triplex FreeBSD CD-ROM には, 3 つのバージョンの FreeBSD が存在しています. それぞれ 2.88MB フロッピーイメージが存在していますが,残念ながら, ブートセレクタのように「どのイメージを使うか」 を事前に選択する方法はありません (注: 実はそのような方法があるようなのですが, 少なくとも mkisofs ではサポートされていないようですので, ここでは考えないことにします).

しかし希望がないわけではありません.実は,boot.flp の中身は, 本質的には kernel だけしかありません (注: どうしてそれだけで良いのか,については,本敲の範囲を越えますので, 省略します).boot.flp の役目は, この kernel を使ってブートすることにありますので, 実質的には 3 種類の kernel を切り変えてブートする方法があれば良い, ということになります.

では,「起動する kernel を切り変える」にはどうすれば良いのでしょうか. ここで使えるのが,loader(8) です(通常 /boot/loader にあります). 「起動時に適当にキー叩いて止めた後に,ok というプロンプトを出している奴」 「boot -c とかを入力した時にそれを実際に解釈してる奴」といえば, 「あー」と気がつく方も多いかもしれません.

あまり知られていないかもしれませんが, loader はとても高機能のプログラムです. loader は,bootFORTH と呼ばれるFORTH 系のプログラミング言語 (正確に言えば,ficl ベースの言語)を解釈するインタプリタであり, kernel やモジュールを読み込む動作は, bootFORTH のプログラムとして記述されています.また, /usr/share/examples/bootforth 以下に, loader 用のサンプルファイルがあるのですが, ここに「複数の kernel を切り変えて使う」という, 今回の目的にまさにうってつけの例が置いてあります(図1).これは使えます.

% ls /usr/share/examples/bootforth/
README          frames.4th      menu.4th        screen.4th
boot.4th        loader.rc       menuconf.4th
ここまでわかれば,後はひとつひとつこなしていくだけです.具体的には 「boot.flp から kernel を取りだす」 「loader を使い,ブートする kerne lを切り変える」 「ブート用ディスクイメージを作成する」の 3 つです. 以下,これらの作業について説明します.

boot.flp から kernel を取りだす

まずは,boot.flp から kernel を取りだす作業から始めましょう. boot.flp はフロッピーイメージですので, vn デバイスを使ってこれを mount すれば,中身を簡単に取りだすことができます. 具体的に, 5.0-CURRENT の boot.flp から kernel を取りだす手順について説明します. まず,vnconfig(8) を使って vn デバイス経由でフロッピーイメージが見えるようにしましょう.
vnconfig -c /dev/rvn0 /work/5.0-CURRENT/floppies/boot.flp

これができれば,あとは /dev/rvn0c をフロッピーだと思って, フロッピーにあるファイルを取りだす方法と一緒です. まずはマウントします(ここでは,仮に/mnt へマウントすることにしたとします).

mount /dev/vn0c /mnt

マウントしたら,/mnt/kernel.gz が欲しい kernel になっていますので, これをコピーしましょう.最終的に作成することになる 「ブート用のディスクイメージ」の中身を置く場所として /bootcd を使うことにし, ここへコピーすることにします.5.0-CURRENT ですから, /bootcd/boot/current というディレクトリを作成し, ここへコピーすることにします (このようなディレクトリにしている理由については,後述します).

mkdir -p /bootcd/boot/current
cp /mnt/kernel.gz /bootcd/boot/current

5.0-CURRENT では,ISA デバイスの割り込みポート情報等を hints file と呼ばれるファイルに書くようになっています. 5.0-CURRENT 系の場合には,これも一緒に cp しなければいけません (4-stable 以前の場合,この手順は必要ありません).

cp /mnt/boot/device.hints /bootcd/boot/current

用が済んだら,後始末をしましょう.

umount /mnt; vnconfig -u /dev/rvn0

同様に,3.5-STABLE, 4.2-STABLE の boot.flp から kernel.gz を取り出し, それぞれ /bootcd/boot/releng3,/bootcd/boot/releng4 という directory を作って,そこにコピーしておきます.

loader を使い,ブートする kernel を切り変える

ここで使う loader は,-current の物にします.今回の場合のように, CD-ROM へ入れる FreeBSD のバージョンへ 5.0-CURRENT(およびそれ以降) を含んでいる場合はもちろんですが, そうでない場合にも, loader だけは -current の物を利用することをおすすめします. -current の loader は, 今回のように複数の kernel を使いわける際の用途に向いています (ディレクトリ単位で分けることができます). また loader 自体も古い物より改良されています.もちろん, -current の loader を使って, 3-stable や 4-stable の kernel をロードすることは何の問題もありません.

まず,ディスクイメージ自体のレイアウトを決めておきましょう. ここでは,以下のようにします.

boot/ -+- current/ -+- kernel.gz
       |            +- device.hints
       |
       +- releng4/ --- kernel.gz
       |
       +- releng3/ --- kernel.gz
       |
       +- loader
       |
       +- その他 loader 用ファイル群

まず,全てのファイルは boot/ (作業ディレクトリで言うと /bootcd/boot) 以下に置きます.最近の 5.0-CURRENT では, kenrel は boot 以下に作られたディレクトリの下に置くことになっていますので, ここでもそれに習っています.5.0-CURRENT でのみ必要となる device.hints も, kernel と同じ場所に置いておきます. その他,loader や loader 用のファイルは全て boot/ 以下にそのまま置きます.

loader が使うファイルは,/usr/share/examples/bootforth にある物 (README, loader.rc, menu.4th を除く)をベースにして書きかえます. これ以外に,loader 自体,loader.4th, support.4th, defaults/loader.conf の 4 ファイルが別途必要になりますので, 5.0-CURRENT の物をあらかじめ持ってきます. すでに 5.0-CURRENT の配布物があるはずですので, そこから取りだせば良いでしょう.面倒な場合は, ftp://current.jp.FreeBSD.org/pub/FreeBSD/snapshots/i386/livetree/5-LATEST/boot/ にある物を入手しても構いません.

説明が繁雑になり過ぎますので, /usr/share/exmaples/bootforth 以下にあるファイルに対する変更点については, 以下へ簡単に示すだけに留めることにします. なお,変更された後のファイルについては, http://current.jp.FreeBSD.org/scripts/bootforth/ にありますので,あわせて参考にしてください.

boot.4th で,/boot/defaults/loader.conf (loader の初期化ファイル) を明示的に読むようにする
これは本来,このファイルが昔の loader に合わせたおり, 現時点における loader の仕様に合わないために必要な変更になります. 初期化なので,単に fload ではなく initialize という単語を使います.
menuconf.4th で,選択肢を表示している部分を書きかえて, 適切な表示に変更しておく.
'menu' の定義 (行頭から : menu で始まる一連の記述)を変えます. じーっと見ていると,なんとなくどう書きかえたら良いかわかるでしょう.
menuconf.4th で,kernel の選択部分を適宜書きかえる.
3.5-STABLE, 4.2-STABLE, 5.0-CURRENT 用のコンフィグファイルとして releng3.conf, releng4.conf, current.conf をそれぞれ使うように書き変えます. また,各ファイルの中身はそれぞれ以下の 1 行です. 5.0-CURRENT については,device.hints を明示的に読むようにしなければいけません. これは,boot.4th を見ながら似たような書き方をすれば良いでしょう.

繰り返しになりますが, こうして書きかえたファイルを全部 /bootcd/boot に置いてください. これで準備はすべて終了です.

ブート用ディスクイメージを作成する

準備は整いましたので, /bootcd ディレクトリをトップディレクトリとするようにして, ブート用ディスクイメージを作成しましょう.

まずは,ディスクイメージとなる(中身がからっぽの)ファイルを dd(1) で作ります. 容量については,boot.flp の大きさの 3 倍,つまり, 2.88MB*3=8.64MB にしておけば大丈夫のはずですので (そもそも boot.flp の中にはいっていた kernelを 3 つ含んでいる, ということを思いだしてください), ここではこのサイズを採用することにします. このサイズは実は少々大きすぎるのですが, CD-ROM にはまだ余裕がありますので,あまり気にする必要はありません.

dd if=/dev/zero of=/work/boot.img count=8640

ここでブート用ディスクイメージを /work 以下, つまり「CD-ROM の中身を置くための作業領域」 に作っていることに注意してください.CD-ROM イメージを作成する際には, このブート用ディスクイメージが CD-ROM の中に含まれるようにしなければいけない, ということを思い出してください.

次に vnconfig を使って, このイメージを後であたかも HDD のようにして操作できるようにします.

vnconfig -s labels -c /dev/rvn0 /work/boot.img

disklabel を使えるように,-s オプションを明示的に使って指定しておきます.

後は /dev/rvn0 を 8.64MB の HDD (注: このサイズのフロッピーは世の中にありませんので, 必然的に HDD ということになります.しかし,今の場合, フロッピーと HDD で異なるのは,単に容量だけ,です)だと思って, disklabel(8), newfs(8) することになります. この際,あらかじめ /etc/disktab へ以下のようなエントリを加えておくと, 作業が楽になります.

minimum6:ty=mfs:se#512:nt#1:rm#300:\
:ns#17280:nc#1:\
:pa#17280:oa#0:ba#4096:fa#512:\
:pc#17280:oc#0:bc#4096:fc#512:

ちなみに minimum6 という名前は, boot.flp を作成する時に使われている disktab のエントリ名 minimum2 の 3 倍の容量であることをわかりやすくするために用いています. このエントリを加えておけば,disklabel と newfs は以下の手順で実行できます.

disklabel -Brw /dev/vn0 minimum6
newfs -i 80000 -T mininum6 -o space /dev/rvn0c

disklabel の実行時には, -B オプションを使って boot block を書くのを忘れないようにしてください (この場合,現在作業している環境の /boot/boot[12] を使うことになりますので, 必要があれば -b, -s オプションを使って, 適切なファイルを指定するようにしてください). newfs を実行する際には,多少なりともディスク容量を増やすために, -i, -o オプションを使います(が,使わなくても大丈夫かもしれません).

ここまでできれば,あとはマウントして中身をコピーするだけです. 先のフロッピーの際と同様,/mnt をマウントポイントとして使うことにします.

mount /dev/vn0c /mnt
(cd /bootcd && find . -print | cpio -dump /mnt)

最後に後始末を忘れないようにしましょう.

umount /mnt; vnconfig -u /dev/rvn0

これで,/work/boot.img が無事ブート用ディスクイメージになりました.

CD-ROM イメージを作成する

ここまでくれば,後は mkisofs を使って, 先ほどと同様に CD-ROM イメージを作成するだけ,です. ブート用ディスクイメージが増えましたので,その分引数も長くなります.

mkisofs -r -J -N -hard-disk-boot -b boot.img -c boot.catalog -o /image/triplex.iso -V FreeBSD /work

-b オプションを使って, どのファイルがブート用のディスクイメージなのかを指示します (CD-ROM の中身のトップディレクトリ /work からの相対位置で書きます). また,今回作成した boot.img はフロッピーのサイズではありませんので, -hard-disk-boot オプションを使って,その旨を指示しておきます.さらに, -c オプションを使って, ブート可能な CD-ROM を作成する際に必要なカタログファイルを mkisofs に指示します.後は数分待てば,無事完成です.

さあ,使ってみよう

首尾よくいったかどうかは,実際に CD-R メディアに書いて試してみましょう. 中身だけの確認なら vn デバイスを使って見ることができますが,起動するかどうかは, 残念ながら実際に CD-ROM を使わないとわかりません.

まず,CD-ROM をドライブに挿入した状態で PC をブートさせます. BIOS の設定等を見て, CD-ROM からブートできる状態になっていることをあらかじめ確認しておいてください. うまく loader が実行されると,まず loader 自身の初期化がはじまります.

bootloader 初期化画面

その後,画面がかわって,起動するバージョンの選択画面になります. メニュー形式で表示され,とてもわかりやすくなっていますが, この辺の処理は,全部 loader がやってくれています.

メニュー表示画面

ここで,1,2,3 を押すとそれぞれ 5.0-CURRENT, 4.2-STABLE, 3.5-STABLE が起動するようになります.ためしに,2 を押して 4.2-STABLE を起動してみます.

kernel 起動画面

図 4 の通り,無事に起動しています (注: 本サンプルは,テスト用に準備しておいた 4.1-STABLE を用いていますが, 4.2-STABLE でも問題ありません).

起動してしまえば,後は通常の CD-ROM と全く一緒です. 3 つのバージョンが入っているからといって,何ら特殊な作業は必要ありません. いつものインストール作業を,いつものように実行することができます.

おわりに

以上,Triplex FreeBSD CD-ROM の作り方について, 駆け足ながらひと通り見てきました. 「そもそも,どうすれば FreeBSD 配布物が作れるのか」 「loader で使われている言語はどのような物なのか, どうしてこう書きかえたら良いのか」 などなど,本稿ではいくつか書き切れなかった部分もありますが, 大体どうしたら良いのか,というのはわかっていただけたのではないかと, 勝手ながら思っています. 一見複雑なことをしていそうなのですが, 実はそんなに難しいことをしているわけではない, ということに気がついていただければ嬉しいです. 「ブートできるCD-ROM」といっても,所詮この程度の作業で作成できてしまうのです.

先にも少し述べましたが,current.jp.FreeBSD.org では,毎週 2 回 (火曜日と金曜日の 20:00 から),この Triplex FreeBSD CD-ROM (もちろん,その時点における最新の 3-stable, 4-stable, 5-current を使っています) の作成を行っています. この他にも 4-stable, 5-current のみが入っている CD-ROM イメージの作成も行っています. これらの作業は全てスクリプトによって自動的に処理されるようになっています. この作成作業に用いているスクリプトは, http://current.jp.FreeBSD.org/scripts/make-isoimage にて公開していますので,興味のある方は一度ご覧になってみてください. 都合 5 種類のCD-ROM イメージを自動的に作成するために, 少々わかりにくい処理がはいっていますけれども, Triplex FreeBSD CD-ROM 作成部分(上記スクリプトの前半部分) でやっていることの本質は,本稿で述べた内容と全く同一です. 本スクリプトを実際に見ていただくと, 全体の処理の流れを再度振りかえることができるでしょう.

なお,残念ながら一部の PC,特に,古い PC は, HDD イメージを用いた CD-ROM からのブートをサポートしていない, ということがわかっています.もちろん, もっと古い PC だと CD-ROM からのブート自体をサポートしていませんので, この場合も動きません.これらの場合にはあきらめて, フロッピーからブートするようにするか,PC を買いかえましょう :-)

謝辞

Triplex FreeBSD CD-ROM のアイデアは, 私が FreeBSD 友の会 daily SNAPSHOTs プロジェクト の一貫として「CD-ROM を作ろう」と作業している間に,ふと思いついた物でした. 本プロジェクトで用いている current.jp.FreeBSD.org の機材, そして本プロジェクトを運用する機会を提供してくださっている FreeBSD 友の会に感謝します. また,本計算機の設置場所を提供してくださっている ネットビレッジ株式会社に感謝します.

また,sysinstall のバージョンチェック部分において, Triplex FreeBSD CD-ROM にとって都合が悪い部分を修正してくださった jkh@FreeBSD.org 氏,menuconf.4th の変更に際し, loader 回りの挙動について有益な助言を下さった dcs@FreeBSD.org 氏にも感謝します.

最後に,過去の Triplex FreeBSD CD-ROM の不具合を報告してくださった方, daily SNAPSHOTs プロジェクトに対して, さまざまな助言をしてくださった方に感謝して,本敲を終えたいと思います. ありがとうございました.


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$Date: 2002/01/05 16:13:12 $